初めまして。労働判例から人事トラブルに関する事柄についてできるだけ解りやすく
全12回シリーズでご紹介していきたいと思いますので、宜しくお願いします。

  ≪パソナヨドバシカメラ事件(大阪地裁判決 平成16年6月9日)≫

この事件の簡単な概略は、派遣会社が取引先との契約(業務委託契約)が不成立と
なったことにより、派遣社員として採用内定していた応募者(以後「応募者」)に対して、
「仕事がなくなった」ことを理由に就労拒否を通告した。
それに対して応募者が、違法な解雇ないしは信義則違反だとして派遣会社を訴えた
というものです。(請求は賃金上の損害賠償として288万円を求めていました。)

裁判上の判断としても、派遣会社(以後「被告」)と応募者(以後「原告」)の間には
「採用内定」と同様の「解約権留保付き労働契約」が成立していたとしており、
その上で本件での契約の解除が「社会通念上」解約権留保の趣旨や目的と照らし合わせて
認めることができるのかどうかが重要な争点でした。

結果判決は、採用内定取り消しは有効であるが、被告が原告に対し、信義則上の義務を
怠ったとして、慰謝料と弁護士費用の損害を合わせ25万円の支払いを命じました。

ではこの事件で、「採用内定取り消しは有効」だが「信義則上の義務を怠った」と
判断されたポイントはどのようなものであったかといいますと…

[1] 本件での「採用内定取り消しの有効性」について
 
 1.就労場所を取引先店舗内に限定しており、また職種は商品販売業務に限定していた。
 
 2.就労場所及び職種を限定する特約が労働契約上存在するため、被告が原告に対し、
   他の就業場所や他の職種での就労を命じることができない状況であった。
 
 3.労働契約締結時に被告が、労働者を就労させることが不能となったと客観的に判断
   できる状態となっても、労働契約を存続させる意思があったとは到底判断できない。
 
 4.被告と取引先との契約(業務委託契約)が不成立となったのは取引先店舗の開店直前であり、
   被告が、同契約が同店舗開店までには成立するだろうと見通しを持っていたこと自体はやむを得ない。
 
 5.取引先から取引先店舗での就労を拒絶されることまで想定して、販売員(派遣社員)の
   採用手続きの進行を中止することが期待されていたとは言い難い。

上記のような判断から、本件について、留保解約権に基づき原告の採用内定を取り消したことは、
社会通念上相当であり、解約権の行使は適法かつ有効であるとされました。

[2] 「信義則上の義務」について
 
 1.被告は取引先との契約(業務委託契約)が不成立となり、取引先店舗での就労が不能と
   なった場合は、留保解約権を行使せざるを得なくなることを予想することは容易であったこと。
 
 2.取引先店舗での就労が不能となる可能性を告知して、それでも労働契約締結に
   応じるかどうか原告に選択する機会を与えるべき信義則上の義務があった。

上記のような判断から、被告は原告に対する信義則上の義務を怠ったとして、
告知義務違反により、慰謝料と弁護士費用の損害について支払いを命じました。
 
以上がこの事件の簡単なご紹介となります。


最近は急激な景気の後退から、派遣社員に限らず、新卒内定者に対する「内定取り消し」
についても、話題となりました。
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人材採用時において、「具体的かつ詳細な労働条件の設定」と「事前説明」について
企業として行えているかどうかを是非一度ご確認くださいませ。