《A自動車学校等運営会社事件》
(長崎地裁佐世保支部判決平成17年12月1日)

今回は、整理解雇に関する判例を紹介いたします。

(概  略)
被告:自動車学校等運営会社A(以下会社A)
原告:元従業員4名(以下B)

会社Aは、自動車学校等を運営する会社である。
同種の事業を行っていた旧会社から、事実上事業の運営を承継して設立されたもの
であった。
会社Aは、平成16年7月に労働組合に対して、同社が危機的経営状況であることを
説明し希望退職者の募集を行ったが、応募者がいなかった為、会社Aが役員会議にて
人選基準を策定し、その人選基準を基に、役員1名と原告ら4名に解雇通知を行った。
そのことについて、原告であるBは、経営の悪化は経営者の放漫経営によるものであり、
このような場合にも、整理解雇の要件を形式的にあてはめて解雇を正当化することは
許されないとし、本解雇を不当として訴えたというものです。

(判決要旨)
判決では、
【1】〈人員整理の必要性について〉
1.会社の経営再建を行うのに頓挫した事業に関する適正な事後処理を行うことは
  避けて通れないものであり、他の経営再建策を講じるより先行し、又は平行して
  事後処理を行う必要があり、事後処理をおざなりにした状態で人員削減のみを
  行うのは、事業失敗のつけを従業員にのみ負わせるものであって、公平性を欠く
  措置である。
2.Bを解雇した後に、繁忙期の教習生の送迎について人員不足が生じたとして、2名の
  パート従業員を相当期間雇用しており、本解雇が人件費削減につながっていない。
3.会社として解雇回避の努力義務を尽くしたとはいえない。

上記3点の理由から、「人員整理の必要性」についての要件を満たさないと判断されました。

【2】〈解雇回避努力の履行について〉
1.労働組合が従前から、事業計画の失敗とこれに付随する資金流出の問題点を指摘し、
  貸付金の回収などの事後処理を人員削減より先に進めるよう要望していたが、
  貸付金の具体的回収方法について検討したり、貸付金の回収金で高利金融の
  元利金を弁済し、債務の軽減をするなどの措置を行わなかった。
2.Bを雇用したままで全従業員の賃金をさらに一部カットするなどの代替策によっても
  対処できた可能性が高い。

上記2点の理由から、「解雇回避努力の履行」について要件を満たさないと判断されました。

【3】〈手続きの相当性について〉
1.従業員及び労働組合に対し、解雇回避に向けた選択肢があることについて
  十分な協議を行わず、検討も行わずに整理解雇を実施した。
2.労働組合が貸付金の回収などの事後処理を人員削減より先に進めるよう要望
  していたが、これに真摯に対応せず、十分な説明をしてこなかった。

上記2点の理由から、「手続きの相当性」について要件を満たさないと判断されました。

【4】〈人選の合理性について〉
「人選の合理性」については、既に「人員削減の必要性」・「解雇回避努力義務の履行」・
「手続きの正当性」の3要件について要件を満たしておらず、仔細に検討するまでもない
と判断されました。


上記【1】〜【4】の判断により、会社Aがした本件解雇は、信義則に照らし適正且つ
有効なものとは認めがたく、解雇権の濫用にあたり、無効であるとの判決となりました。


本判決は、整理解雇の正当性について争った裁判であり、単に経営状態が悪化したこと
のみをもって人員削減の正当性が認められるわけではなく、形式的に手順を踏むのみでは
経営者側の行動として不足であるとのことがこの判決から見受けられます。
整理解雇の要件としては、4つの要件を全て満たしているかどうかがその判断基準である
とは広く知れ渡っていますが、実質的に、企業がどの程度解雇回避努力を検討、実行し、
又、労働者との協議・説明を果たしているかが重要となってまいります。

今回の事例については特に、本裁判に至る以前の経緯も注目すべき点であり、
従前から経営者交代に際し、旧経営者を支持していた労働組合員である労働者を
敵視し、解雇及び懲戒処分を乱発していたことから労使紛争が相次ぐ状態であった
ということです。
労使双方に不信感や敵対心が蔓延していた状態では、まとまるものもまとまらなくなる
ことは道理であると感じます。
退職・解雇という労働契約解除の場面にあっては、問題が顕在化する一番のタイミング
であり、たとえ経営上の必要から、人員削減の必要性が予測された場合であっても、
解雇回避の対策と、労働者への適切な説明、協議を行い、労働者側の納得性を
高める努力を行うことが、最終的には企業の利益につながるものと考えますので、
ご検討されている企業様におかれましてはご注意くださいませ。