《合成樹脂容器製造・販売会社A事件》
(東京高裁判決平成12年5月24日)

今回は退職勧奨に関する判例を紹介いたします。
地裁での判決が高裁では逆転した判例です。
この事件の概略は次のとおりです。

(概  略)
控訴人 :合成樹脂容器製造・販売会社A(以下会社A)
被控訴人:元従業員(以下B)

会社Aは、経営合理化の一環として関東工場(茨城県)の生産部門の分社化を
行いました。
それに伴い、余剰人員となった従業員について、雇用維持と新製品開発・製造を
目的とした本社工場(広島県)の新生産部門への要因確保のため被控訴人を含む
一定の従業員に対し転勤命令を出しました。
その後複数回説明会が行われましたが、納得できなかったBは、その後に
自己都合を理由とする退職願を会社Aに提出しました。

上記経緯により、会社Aの従業員であったBが会社Aから不当な転勤命令により
退職を強要されたと主張し、債務不履行ないし不法行為に基づき、勤務を
継続し得た向こう一年間に得ることができたであろう賃金、慰謝料、及び
会社都合退職金との差額の損害賠償を求めたというものです。
第一審では、会社Aの債務不履行ないし不法行為があるとしてBの主張が
一部容認されました。
それに対し、会社Aがその判決を不服とし控訴したというものです。


(判決要旨)
判決では、
【1】〈転勤の必要性について〉
1.バブル崩壊後の厳しい経営環境にあり同業他社との競争が激化しており、
  経営合理化を図らざるを得ない環境にあった。
2.関東工場の生産部門分社化に伴う余剰人員の雇用を維持しつつ、新生産部門での
  要員を確保する為に、組織全体で行われた人事異動の一環として計画された
  ものである。

以上2点から、本件に係わる転勤は、会社Aの経営環境に照らして合理的なものである
と認められる。転勤要員の選定過程についても格別不当な点があったとは認められない。

【2】〈転勤命令の効力について〉
1.Bは関東工場近くに生活の拠点をもっており、遠方への転勤が容易でない事情は
  理解できるが、全証拠と照らしてもBが関東工場に限定して採用されたとの
  事実は認められない。
2.就業規則上に「会社は業務上の必要があるときには転勤、長期出張を命ずる
  ことがある。この場合、社員は正当な理由なくこれを拒むことはできない。」
  と明記されている。

以上の2点から、Bは上記規則を了承した上で勤務してきたと認められ、Bが転勤に
応じられないとする個別事情も、転勤を拒否する正当な理由とはいえない。

【3】〈従業員への配置転換にかかる告知及び措置〉
1.会社Aは、経営合理化を図らざるを得ない事情とその為に会社が採ろうとしている
  経営方針等を社内報等を通じ、従業員に周知徹底していた。
2.Bを含む転勤対象者に、転勤させる必要性を個別面接や数回にわたる説明会等
  を通じ説明し、又、本社工場に出張させ、稼動状況について見学させていた。
3.会社Aは、Bから同意が得られるまで転勤命令を延期する措置をとった。
4.関東工場近くにある関連会社を出向先として紹介していた。

上記4点から、会社AはBに対し円滑に本社工場に転勤できるよう、又、関連会社で
出向という形で就職できるよう最大限の努力をしたものと認められる。

【4】〈退職の強要について〉
1.会社Aの就業規則には「【2】-2」の規定のほか、「転勤を命ぜられた者は、
  発令の日から起算して14日以内に赴任しなければならない」と規定されており、
  「正当な理由無く、仕事上の指揮命令に従わなかったときは懲戒解雇」とする
  規定があった。
2.工場長が「14日以内に行ってもらえない場合は懲戒解雇になる」と述べている
  ことが認められる。
3.部長が「懲戒解雇する」「やめろ」と述べたとすれば、それは就業規則の
  説明をしたにとどまるものと認めるのが相当。

以上3点から、部長がBに対し転勤もしくはこれに応じない場合の辞職を強要した
とまでは認めがたい。


上記【1】〜【4】の判断により、転勤命令は人事権の行使として違法、又は
不当な点があったとは認められず、Bは自己都合により退職したと認めるほかない。
又、これに付随する会社Aからの報復や嫌がらせ行為が合ったとも認めることが
できないとのことから、第一審での判決はその限度で不当であるとし、会社Aの
敗訴部分を取り消した上、Bのいずれの請求も棄却とする判決となりました。


本判決は、配置転換に端を発した、退職の強要があったかどうかを争うものでしたが、
会社の配置転換に対する説明責任の履行や雇用維持の意思、就業規則上の明確な
規定があることにより、会社の主張が認められたと考えます。

皆様の企業内におきましても、企業側と労働者側という相反する立場からの主張により、
争いとなることもあるかと思いますが、退職を伴う場面が一番問題が顕在化する
タイミングとなりますので、本件を参考にしていただき、
(1)就業規則及び雇用契約書の整備
(2)会社の正当性を満たす事前措置の実行
(3)退職に際しての根拠のない脅し等の不当な強要の防止
に注意し、対応いただきたいと考えます。