《消費者金融会社B事件》
(京都地裁判決平成18年8月8日)

今回はパワーハラスメントに関する判例を紹介いたします。
この事件の概略は次のとおりです。

(概  略)
原告:幹部社員A(以下A)
被告:消費者金融会社B(以下会社B)

会社Bの幹部社員であったA(取締役)が平成15年8月の与信設定限度額勉強会で
会社Bの代表者であるC(以下C)から、持ち家顧客全員の登記簿謄本を取得するように
指示がなされ、Aは上司(その時点の本部長)に報告しながら同業務を実行していた。
しかし、同年10月にCは謄本の取得費用が総額1600万円かかり、既に700万円を
出費していることを知り、Aが未決済のうちに多額の費用を発生させたことについて
「おまえは何しとるんじゃ」と怒り出した。

この件でAは3ヶ月の減給処分となったが、それ以後Cから受けた不法行為により、
Aはこの行為が原因でうつ病が発症・憎悪し、多大な精神的苦痛と、退職を余儀なくされた
として総額約6200万円の支払を会社に請求した。

AがCから受けたとした行為は次のとおりです。
 1.Aが社内会議やミーティング等の際に何か発言するとことごとくケチをつけ、
  否定し、口汚く罵倒された。
 2.同年12月29日に行われた食事会の2次会の席でCからたばこの火を
  左頬に押しつけられ、顔面火傷をした。
 3.平成16年1月14日に2名の部下の休暇取得についてどちらを先に許可したのか
  Cに聞かれ、Aが「忘れました」と返答すると罵倒され、始末書を提出させられた。
 4.同月に3を理由に、管理者としての判断を誤ったとして部長から次長へ降格となった。
 5.平成16年2月3日からうつ病の為休暇を取っていたが、CはAを2月11日に呼出し、
  1時間説教し、Aはやむなく16日から出勤した。

(判決要旨)
判決では、
【1】〈本請求の原因となった件について〉
 1.謄本取得についてCから指示提案があったとしても、これに基づく事務処理
   について、通常の会社で意思決定として行われる手続きが不要にはならない。
 2.謄本取得に伴う、臨時且つ総額が未確定である多額の経費支出が必要なもの
   について、Cの指示提案であっても稟議を必要としないとは考えがたい。
 3.Aが上司である本部長に報告相談していたことは認めるが、直接Cと同席する
   会議が定期的にあり、その会議では報告しておらず、AはCの決裁を受けること
   を怠ったと認められる。
上記の観点から、この件についてCがAを叱責し、Aを3ヶ月の減給処分としたことは
不法行為にはあたらない。

【2】〈Aに対する罵倒の件について〉
 1.Cから罵倒された件についてAに落ち度がないわけではなく、Cに一方的に非がある
   わけではない。
 2.CがAに対し、Aの会議等での発言がある度に、それを否定し、ケチをつけ、
   ことあるごとに罵倒していたことは認められる。
上記の観点から、頻繁にそのような罵詈雑言を弄することは、それ自体が不法行為にあたる。

【3】〈たばこの火の押しつけの件について〉
 1.火傷の程度から考えて、たばこの火は偶然当たったものではなく、
   故意によるものと認められる。
 2.2次会出席者のうち、Aに故意にたばこの火を押しつける者としては、上位の
   地位にある者と考えるのが相当であり、Cの不評を買っていたことを考慮し、
   Cから押しつけられたと認められる。
 3.2次会を行っていた店の経営者の証言も認定を裏付けるものである。
上記の観点から、Cがたばこの火を押しつけたと認められ、不法行為にあたる。

【4】〈同時休暇承認の件について〉
 1.部下2名について同時休暇を認めた順位についてCがAに対し質問したのは、
   同時休暇が終了した後であること。
 2.休暇承認の後先について記憶していないことだけについて、管理職としての
   適格性を欠くというような事柄ではないこと。
 3.この件を理由として、部長職から次長職への降格があったこと。
上記の観点から、この件について叱責し始末書の提出を求めたことは不法行為にあたる。

【5】〈休暇取り止めの件について〉
 1.平成16年2月11日にCの指示によりAが呼び出されたこと。
 2.休暇中の症状確認であれば電話で確認することで充分であり、症状確認
   以外の意思がCにあったこと。
 3.失職し、生計の手段が無くなることを恐れ、Aが症状改善が認められない
   状態で、2月16日に再開したこと。
上記の観点から、CがAに対し、呼び出した上、出勤できないなら辞めろと言ったことが
認められ、不法行為に当たる。


上記【1】〜【5】の判断により、本件についてうつ病発症との因果関係は
認められないが、精神的苦痛を受けたことは認められるため、総額670万円の
損害賠償が認められました。

この判例は、パワーハラスメントを認めた珍しい判例の一つですのでご紹介致しました。
社内での部下の管理上、管理職としては叱咤激励し、一つのグループとして
良い方向に向けて行動できるよう指導する責任があり、どこまでが気持ちのこもった
指導であり、どこからがパワーハラスメントになるのかは実は明確なラインはなく、
管理側としては悩ましいところです。
ただ、上司として部下を指導教育する際に、根拠のない批判・無視・本人の人間性を
否定する度重なる罵倒・暴力・わざと孤立させる等の行為を度重ねて行うことは
避けるべきであり、企業側として、労働問題発生を防止し、且つ良い企業風土構築
に向け、しっかりと管理職となる人材の教育に力を入れられることをお勧め致します。