前回は、判例をもとに「労働時間」とは何かについてお話しました。
労働時間かそうでないかは、使用者の指揮命令下にあると客観的に評価できるか
否かによって決まるとされていました。



では、具体的に「指揮命令下にある」とはどのような状態なのでしょうか。



〜使用者の支配下にあって、具体的な指示のもと労働力の供給を目的に、
一定の方向に向けて精神的・肉体的活動をするように義務付けられた状態〜


こう表現すると何か物々しい感じがしますが、もともとは軍隊で使用されていた
軍事用語(command&order)だけに当然かも知れません。


かつて封建制度下では、四六時中使用者の指揮命令下(監視)にあって
労働に従事することを余儀なくされていましたが、労働基準法制定とともに
その指揮命令下にある状態に一定の制限が設けられました。
これが法定労働時間です。

つまり、労働に従事する根拠が身分関係にあるのではなく、対等な立場により
契約した債権債務契約(雇用契約)に拠るものとなったわけです。

ですので、雇用契約における「指揮命令下にある」とは、労働の対価として
賃金が支払われること(賃金請求権)を前提とした労務の提供であることが
条件となります。


裁量による変形労働時間など、対象業務への具体的な指示(遂行の手段や
時間配分など)をしないことが要件ですので、労働者自らが使用者のために
創造的に行う労務の提供が労働時間となり、それが賃金の支払対象になるわけです。

このように、時代や社会構造の変化とともに、労務の提供方法も多様化し、
労務そのものの質も変化しています。それにより、使用者と労働者の間における
指揮命令関係にも変化が生じていることは確かです。


ITの進歩とともに時と場所を選ばない「モバイルワーク」が可能になりつつあり、
「指揮命令下」という言葉の持つ意味やイメージが現実にそぐわないケースも
多く見受けられます。


労働時間かそうでないかを判断する上で、過去の判例は大きな指標となります。


ただ、その指揮命令下にあることの「客観性」を担保する要素の一つとして、
その時々の労務の提供の在り方や労使間における雇用契約の内容によって、
個別に判断されるケースが今後ますます増えてくるのではないでしょうか。