前回は、雇用契約の意味や定義についてお話ししました。
今回は、その雇用契約の変形バージョンである『内定』について取り上げて
みたいと思います。


一般的に新卒者の採用選考において用いられていますが、実は労働基準法はじめ
その他関係法令にその定義や効力がきちんと定められている訳ではありません。
場合によっては内々定・内定の内定など、既にその意味すらよく分からないまま
使用されていることもあります。


実際のところ、内定とはどのような状態・契約を言うのでしょうか?


雇用契約は前回にも触れましたが、双方の意思の合致のみで成立する諾成契約
ですので、「今日から働いて下さい」「分かりました」で有効に成立します。


では、「来月から働いて下さい」「分かりました」ではどうなのでしょうか?


契約自体は有効に成立(意志合致)していそうですが、ただこの場合
働き始めるのは1ヶ月先です。働き始める日(就労の始期)が到来して初めて、
労務の提供義務や賃金の支払義務が発生しますから、厳密には雇用契約の
内容を十分に満たしているとは言えません。

また、この1ヶ月の間に体調不良や経営不振などの理由で、当初の予定どおり
働けなくなることも考えられます。

採用が(内々に)決定していながら未だ就労日に到らず、場合によっては
双方の理由により取消・辞退される可能性もある不安定な状態です。


これが内定の「難しい」ところです。


過去に、この内定をめぐり最高裁で争われたリーディング・ケース(大日本印刷事件)
があります。簡単に申し上げますと、採用内定を受けていた学生が
入社前になって急に内定を取消されたという事案です。

判例は、いくつかの条件留保はあるものの、入社前であっても雇用契約自体は
有効に成立しているとの立場をとっています。

内定時に双方で約束した理由があった場合には解約できるという条件付きで、
入社日に雇用契約の効力が発生する「就労始期付解約権留保付」雇用契約という
非常にややこしい変形バーションが成立しているのです!

仮に留年になれば当然入社も出来ませんから、契約自体も解約されるという
条件付きですが、この条件には内定時に約束した理由(病気や怪我等)、
あるいは経営不振などやむを得ない理由に限定されるという事です。


新卒でも中途でも即日から働き始めるのは稀なケースであり、期間の差はあれ
この「内定」状態を経て就労開始に至ります。


いつの時点でどのような契約が結ばれ、そしていかなる効力を持つのか
実はこの内定という言葉、意外と突き詰めていくと深いのです。