今回は、雇用契約においてとても重要な要素である賃金について、法律上どのように
定義されていて、またいかなる機能を持つのか考察したいと思います。
まずはこのシリーズ第1回目で取り上げました雇用契約の定義を思い出して下さい。

〜「当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方が
  これに対してその報酬を与えることを約する」〜(民法623条)

加えて、労働基準法にも賃金についての定義がなされております。
(労働の対価を測る労働時間の定義についての記述がないことを考えると、
 この賃金がどれだけ重要であったかが分かりますね)

〜「賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の
対象として使用者が労働者に支払うすべてもの」〜(労働基準法11条)

つまり、賃金の定義を3つ要素に分解しますと

<1> 使用者が支払うもの
<2> 労働の対象として(どのような名称に関わらず)
<3> 労働者が受け取るもの

となります。これら3つの要素全てを満たして初めて賃金となります。

例えば、旅館の仲居さんや飲食店のウエイターさんがお客さんから「直接」
受け取るチップは賃金に該当しません。<2>労働の対象として<3>労働者が受け
取るものに違いありませんが、そのチップは<1>使用者が支払っていないからです。
※精算時にチップなど全てを含めて支払い、その後に労働者に分配される場合は
 賃金となります。(結果として<1>を満たしますので)

では、食事の供与、住宅や制服の貸与はどうでしょうか?
<1><3>の要件はクリアしていますが、<2>の労働の対象としてではなく
恩恵的福利厚生的なものなので、これも賃金には該当しなくなります。
※労働基準法11条は、賃金が通貨であると特定していないのがポイントです。

ただ、この<2>の労働の対象に該当するかどうかについては、判断の悩むところ
です。何故なら、雇用契約上、労働者としての地位の対価として使用者に
支払いが義務づけられているものも広く含むと解釈されているからです。

この点について、とりわけ問題となるのが退職金です。
判例においては、就業規則その他において支給基準が明らかにされており、
使用者に支給義務がある場合には退職金は賃金に当たるとされております。
(伊予相互銀行事件)
本来、退職金は必ず支給しなければならないものではありませんので、逆に、
まったく使用者の裁量に委ねられた恩恵的給付なのであれば、賃金には該当
しないことになります。賞与についても同様のことが言えます。

また、ストックオプション(自社株をあらかじめ設定した価格で将来購入する
権利を付与すること)が賃金に該当するかどうか問われたこともありますが、
これについては、その権利を行使するかどうかは労働者の判断に委ねられて
いる(オプショナル)と言うことで、賃金には当たらないとされました。
(平成9.6.1 基発412号)


このように、何が賃金でありそうでないのか、この3つの要素に当てはめながら
個々に判断していくことになります。加えて仮に賃金に該当するのであれば、
労働基準法24条の賃金支払の5原則なども適用となります。


冒頭にもお話しましたが、賃金は雇用契約の根底をなす非常に重要な要素であり、
また労働者にとっては日々の生活の糧となるものです。
それだけに、争いの頻発するところです。無用な争いを避けるためにも
日々の労働者からの労務の提供に対して何をどのような目的で支払っているのか、
それが賃金なのかどうかを常日頃より意識して頂く必要があるかと思います。