前回は賃金の定義において、何が賃金であり、そうでないのか
3つの要素に当てはめて考察しました。
その中で、退職金が労働の対象として賃金に該当するのかどうかについても
触れましたが、退職金の意味やその性格について、過去の判例も交えて
もう少し深く掘り下げてみたいと思います。



退職金は、功労報償や退職後の生活保障など様々な性格が認められ、
当事者の合意がない限り支払い義務は無く、通常の賃金とは異なり
「任意的」な性格を有するのが特徴です。

ただ、前回でも触れましたが、その支払条件が明確であれば、
労働基準法11条の労働の対象としての賃金に該当しますので、
この退職金を受ける権利(退職金請求権)は法的に保護されます。


「任意的性格」としての退職金と「賃金」としての退職金が、
この二つの異なる要素においてどのように折り合いをつけるか、
過去に様々な争いがありました。


例えば、自己都合と会社都合退職とでは退職金の額に差があることは
一般的であり、退職時に使用者が会社への貢献度を再評価して
金額を決定する趣旨であることは理解されています。

退職後の競業行為と大量引き抜きについて不支給を認めた事件
(福井新聞社事件)や鉄道会社の職員が痴漢撲滅運動中に、
休日に他社の鉄道の社内で痴漢行為に及んで逮捕された件について、
懲戒解雇した上で退職金を不支給とした事件(小田急電鉄事件)など
その有効性を裏付けています。


つまり、不支給・減額要件も含めてその支払条件をどのように定めるかは、
当事者の自由であって、支給条件を満たさない場合には賃金請求権を
前提とする全額払いの原則に抵触しないことになります。
(支払条件が明確であれば賃金になりますが、その条件に「任意的」
あるいは「条件的」要素が加わることで、完全な賃金にはなり得ない
という入れ子構造になるわけです。)


ただし、退職金は月額の給与や賞与と比べても金額的に大きいのが
通常ですので、前述のリタイア後の生活設計の基盤となる原資や賃金の
後払い的な側面から考えますと、その支払条件が全て使用者の「任意」
あるいは「恣意」のみに委ねられますと、労働者保護の労働基準法の
観点から大きく外れてしまいます。


例えば、懲戒解雇の場合に退職金を不支給とする規定があったとしても、
実際にこれを限定的に解釈し、永年の勤続功労を抹消させてしまうほどの
「顕著な背信行為」がない限り、退職金の不支給は許されない(日本高圧
瓦斯工業事件)などの判例もあります。

その判断にあたって、不支給規定の合理性、退職に到る経緯や
会社の損害など具体的事情を総合的に考慮して、
退職金の支給・不支給が決定されることになります。



このように、退職金は長期勤続を前提として、具体的な請求権は退職時に
発生するものです。終身雇用制度の終焉とともに、退職金制度自体を設けない、
あるいは在職時に賃金に上乗せして支給する会社も増えつつあります。

退職金も含めて賃金とみなすのであれば、賃金・評価制度の中で
どのような機能を持ちその意図を反映させるのか、
支給・不支給条件も合わせてしっかりと制度設計を行う必要があります。