このシリーズでは、毎回雇用契約の「契約」という側面にスポットを当てながら、
契約展開の様々なケースについて触れてきました。

そこで、最終回は雇用契約の基本原則を定めた労働契約法が成立した背景について
お話したいと思います。
労働契約法はその名のとおり、雇用契約の開始から終了に到るまで個々の
労働関係に関わるルールを定めています。

均衡処遇やワークライフバランス、有期雇用など、今日的な課題についても
取り上げており、新時代のワークルールといって良いかも知れません。


労働関係の法律で最初に思い浮かぶのは、おそらく労働基準法かと思います。
昭和22年に制定され、これまでに何度も改正され今日に至っていますが、
あくまでこれは、最低守らなければならない「基準」を定めたものです。

戦後の経済復興から高度経済成長へと推移する中で、働く価値観や就業形態も
多様化し「最低基準」を超えたところでの労使間の争いも多くみられるように
なりました。

このシリーズのタイトル「判例からみる」にもありますように、個々の争いが
法廷の場で裁かれ、多くの判例が蓄積されました。その中でも主たる判例要旨は
モデル裁判例として、今なおその後の争いを解決する上で大きな指標となって
います。

ですので、このような判例が出ているのであれば、それを基準に解決の途を
見つけましょうと言うことで、このシリーズでも多くのモデル裁判例を扱って
きました。

「日本をダメにした10の裁判」という書籍が今話題となっていますが、
良くも悪くも日本の法廷は過去のモデル裁判例を踏襲して、個々の事件に
対応することを常としていますので、ある意味で社会の変化に迅速に対応
し切れないという弊害も出てくる訳です。


前置きが長くなりましたが、労働契約法はこれまで判例に委ねられていた
部分を法文化し、「有効・無効」の判断基準を明確にしたものとなります。
争いが起こった場合にどのような解決がなされるのかを予め示しておく(予測
可能性を高める)ことにより、未然にトラブルを防ぐということが狙いです。

前回取り上げました解雇についてのモデル裁判例:日本食塩事件の判例が
労働基準法18条の2→労働契約法16条に引っ越したのもその為です。


また、労働契約法は、雇用契約の基本原則を定めています。

1. 使用者と労働者が「対等」な立場で締結されること
2. 「合意」に基づいて締結し、または変更すべきもの
3. 就業の実態に応じて、その「均衡」を考慮すること
4. 仕事と生活の「調和」にも配慮すること
5. 信義に従って「誠実」に権利義務を履行すること

「対等・合意・均衡・調和・誠実」がこれからの雇用契約締結における
キーワードになって来るのかと思います。

労働契約法成立の過程で、権利団体の利害の不一致から当初の原案から
数多くの条文が削除され、結果としてわずか「19条」に留まりました。
ただ、「小さく生んで大きく育てる」という趣旨の下、これから徐々に
整備されて行くものと思われます。


今までは法律がこうだから、基準がこれだからという視点で画一的に
雇用契約をみてきたところもありますが、これからは前述のキーワードを
もとに労使双方が自主的に最大のアウトプットを出せるような雇用契約を
締結するなどの柔軟な対応が求められる時代がやってきます。

微力ながら、皆様のこれからの労務管理のヒントになれれば幸いです。
全12回お付き合いいただきまして、誠にありがとうございました。