前シリーズでは、雇用契約の「契約」という側面にスポットを当てながら、
契約展開の基本的なケースに触れてきました。労働基準法はあくまで「基準」
であり、労働契約法はわずか19条(今後に期待です)、依然として契約原則を
参照するのはやはり民法(全1044条)になるかと思います。


今シリーズでは、その発展形としまして労働問題を民法の視点から見て、
雇用契約の各ステージにどのように作用するのか検証してみたいと思います。


憲法が国家と国民との間について定めたものであれば、民法は国民と国民
(法律用語では私人間)との間について定めた法律です。社会には、様々な法律が
ありますが、民法は人が生まれてから死ぬまでのあらゆる段階に関わってくる
ものです。ですので、1000を超える条文があり、おそらくどの法律よりも身近に
感じる、まさに「民の法律」なのです。

前シリーズの1回目に、民法の雇用契約の定義についてお話しました。


「当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに
対してその報酬を与えることを約する」(民法623条)

つまり、働いてくれる代わりに(対価として)お給料を支払いますよということを
お互いに約束するということでしたね。


例えば、1カ月間一生懸命に働いて、待ちに待った給料日に自分の口座に
お給料が振り込まれていなかったとしたらどうでしょう?


お互いに約束した内容がきちんと守られなかった場合、一方の当事者はいったい
どうすればよいのでしょうか?


ここで、登場するのが私人間について定めた民法なのです。

「債務者がその債務を履行しないときは、債権者はこれによって生じた損害賠償を
請求することができる」(民法415条)

この場合の債権者とは労働者で、給料をもらう権利(賃金債権)を持っており、
逆に債務者とは使用者で給料を支払う債務を負っているということです。

労働者は裁判所に給料の支払いを求めて使用者を訴えることができます。
そこで労働者の言い分が認められれば、裁判所は使用者に給料の支払いを
命じることになります。

仮に、この裁判所の判決(支払命令)にも従わず、尚、給料を支払わなければ、
使用者の財産を強制的に差し押さえることができます。(民法414条)


契約が「有効に成立」しているというのは、このように、契約の当事者の一方が
約束を守らなかった場合に、裁判所という国家機関がその力を持って契約内容の
実現を助けてくれるということです。


雇用契約において、賃金の支払いは最も重要な要素なので、労働基準法にも
その定めがあります。賃金の未払いの度に、都度裁判などしてはいられない
ですから、民法(一般法)より効力の強い特別法で賃金の支払いについて
その強制力を持たせているのです。

このように、民法からみた雇用契約の一般原則を知ることにより、労働基準法
などの特別法の存在意義についても理解が深まってくるかと思います。

これから全12回是非お付き合い下さい。