雇用契約は法律行為の一つですので、申込と承諾の二つの意思表示が合致した
ときに成立します。

では、どの時点で二つの意思表示が合致したものとするのでしょうか?

このシリーズで何度か取り上げていますが、
「働きたいです(申込)」「いいですよ(承諾)」という会話がなされた時点で
雇用契約が成立するとお話しましたが、仮にこれを文書等でやりとりした場合
どうなるのでしょうか?


例えば、採用予定者が直接会社を訪問し、面接の結果、使用者がその場で
採用を決定した場合は、その場で申込と承諾が行われたことになりますので、
契約は何の問題もなく成立します。

ところが、当時者が離れた場所にいて文書等でこれらのやりとりをする場合は
タイムラグが生じますので、雇用契約がどの時点で成立するのか重要な問題に
なります。

民法は、これに対して「到達主義の原則」を定めています。

「隔地者に対する意思表示は、その通知が相手方に到達した時からその効力を
 生ずる」(民法97条)

では、どのような状態を「到達」とするかについては、判例上、意思表示の
書面が相手方の郵便受けに投函されたり、同居の家族などがそれを受け取るなど、
その文書の存在を知ることができる状態にあることを指します。

ここで重要なのは、相手方が知ることができる状態(了知可能)であれば、仮に
内容を確認していなくとも、到達があったものと評価されます。

従いまして、法律効果を伴う重要な文書が、「配達証明郵便」等にてやりとり
されるのは、相手方にその文書が到達しないケース(郵便事故など)を防ぎ、
確実に配達(相手方に到達)したことを証明してくれるサービスだからです。


このように、意思表示の効力発生について「到達主義の原則」がありますが、
この原則に例外があります。

それは、承諾についての「発信主義」です。(なんだかややこしい話ですが)

「隔地者間の契約は、承諾の通知を発したときに成立する」(民法526条)

承諾について発信主義を採るということは、申込の意思表示に対する承諾の
意思表示が、何らかの理由で申込者に到達しない場合であっても、契約は有効に
成立していることを意味します。

不思議な話ですが、民法はこの例外を認めており、申込よりリスクの少ない
承諾について発信主義を認めることにより、契約の早期成立と法律関係の安定を
望んでいるからなのかと思います。


このように、民法において契約成立の原則が定められていますが、時代の変化や
通信機器の発達により、意思表示の方法も多岐多様になってきています。

転職サイトを通じての募集やメールでの採用決定通知の発信など、国や地域を
越えてボーダレスに人材募集がなされる場合、果たしてこの民法における
「遠隔地」の定義がそのまま当てはまるケースは稀かと思います。

通販サイトでのショッピングが一般的になるにつれ、電子契約法(電子消費者
契約及び電子承諾通知に関する民法の特例)が整備されるなど、より円滑な
契約成立に向けての動きもあります。

雇用契約は、まだまだ「契約」という側面が希薄なだけに、民法の一般原則を
参照するしかありませんが、今後労働契約法などにおいて、その内容だけではなく、
成立過程についても順次整備されていくものと思われます。