〜労災とハラスメントの裁判例 〜

いまや、うつ病患者は100万人を超え、今後国においても精神疾患に対する対策が
強化されることになるでしょう。

独立行政法人労働政策研究・研修機構がメンタルヘルスに関する調査
(5,250事業所が回答)の結果をまとめ、職場の人間関係などにより
メンタルヘルスに問題を抱える社員がいる事業所が、全体の56.7%であると
調査結果を公表しました。


そのような中、うつ病の発症は、パワハラが原因であるとする裁判例を紹介したい
と思います。


うつ病を発症したAさん(43歳)がいました。

Aさんは親会社から出向し、子会社で2年勤めたのですが自殺をしました。
遺族は、自殺は当時の上司Iさんの厳しい叱責が原因で、業務上の災害である
と労災保険法に基づく各種請求を行いました。

しかしながら、業務との関連性は認められないとして不支給処分が下され、
その不支給処分の取り消しを求めた訴訟がありました。(出光タンカー事件)


結果としては、企業での一般的な水準を超えた叱責であり、心理的な負荷は
精神障害を発症させるほど過重であったとして、自殺は業務上災害に当たると
判断がされ、不支給処分は取り消されました。

【ポイント】
・6ヶ月平均の時間外労働が約90時間
・他の社員からもわかるように公然と叱責が行われていた
・他部署の管理職からも注意されていた
・「会社を辞めろ!」「死ね」などと暴言があった


これらからパワハラにあたると判断され、精神疾患を引き起こしたと裁判所は
認定したのですが、「死ね」という言葉は行き過ぎであるにせよ、人格を否定する
キーワードが、他のパワハラにおける判例を見ていると浮かびあがってくるものが
あります。

それは・・・

 ”キャリア”

です。

このAさんは、経理職として20年以上のキャリアがあり、当初Iさんも
将来の管理職候補として期待を込めて強い指導を行っていたそうです。

しかし、期限までに業務を達成できないことも多く、IさんはAさんに対して
管理職としての資質に疑問を持ち始め、叱責がより厳しくなっていったようです。

会社を辞めろという言葉は、自己の経験を全否定された気持ちになるのは、
これだけのキャリアを持っているとわかるような気がします。

一方、管理職としては、長年に渡るキャリアから、これくらいのことはできるだろう
と思うことは当然あると思いますし、期待していれば尚更のことですよね。

ただ付き合いが浅く、コミュニケーションがうまく取れていなかったがために
起こった悲劇だったように感じます。


個々のキャリアを見て、仕事を予測して割り振っていくことが管理職の役割の一つ
だと思いますが、部下にも自分と同様のレベルを求め、極端な話、精神疾患にかかる
人がいることも忘れず、自分中心の労務管理ではなく、人を見ての労務管理を
心がけていくことが重要となっていきます。


往々にして、上司になる方というのは、能力の高い方だと思いますので、
常に自己反省を持っておくくらいが、ちょうど良いのでしょう。