債務不履行とは、文字通り債務者が正当な理由がないのに、債務の履行を
しないことをいいます。

例えば、休日に野球をやっていて骨折し翌日会社に出勤できなくなった場合、
能力不足により会社が求める業務を満足に出来ていない場合、あるいは
会社が所定の日に給与の支払いを遅延した場合などなど。

それぞれどのような債務不履行にあたり、その結果どうなるのでしょうか。

債務不履行には
@ 履行不能
A 不完全履行
B 履行遅滞
と三つのタイプがあります。

先の例で言いますと、プライベートな理由(休日に骨折)で出社できず本来の
労務提供が不能となった場合(履行不能)、労務の提供は出来るけれども
一方の報酬の支払いに見合った結果ではない場合(不完全履行)、
資金繰りが厳しく給与が遅配となった場合(履行遅滞)となります。

民法はこの債務不履行に対して、次のように定めています。
「債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者はこれによって
生じた損害の賠償を請求することができる」
(債務不履行による損害賠償:民法415条)

ところが現実問題として、このようなケースについて一つひとつ債務不履行
だということで、損害賠償を請求することはまず無いでしょう。

と言いますのも、雇用契約は一方が債務の履行をすることによって、他方が
履行されるという関係(双務契約)だからです。またこのように持ちつ持たれつ
の関係のことを、「対価関係」にあるといいます。

労働者は定められた期間(賃金算定期間)に労働する債務を履行し、使用者は
それに対する対価を定められた期日に支払う債務を履行する関係にあります。

ですので、当事者の一方が、自らの債務の履行を拒否しつつ、相手方にだけ
履行を求めることは不公平であり、その履行は特別な理由が無い限りは、
同時に履行されることが公平に適うことになります。

民法はこのようなケースについて、次のように定めています。
「双務契約の当事者の一方は、相手方がその債務の履行を提供するまでは、
自己の債務の履行を拒むことができる」
(同時履行の抗弁:民法533条)

このように、同時履行の抗弁権は双務契約の当事者において、相手方が債務の
履行を提供するまでは、自分の債務の履行を拒むことができる権利のことを
言います。

具体的に言いますと、遅刻や欠勤の場合は所定賃金から控除されるように、
働かないのなら賃金は支払わない(ノーワーク・ノーペイ)や能力不足や
勤務不良については、査定により減給(その賃金に見合った労務の提供が
なされていない)となります。

ただ、雇用契約は法律上、労務提供義務が先履行となっていますので、特段の
定めが無いかぎり、日々の労働についてその日の賃金支払いとの同時履行を
求めることはできません。

「労働者は、その約した労働を終わった後でなければ、報酬を請求することは
できない。期間によって定めた報酬は、その期間を経過した後に、請求すること
ができる」(報酬の支払時期:民法624条)

雇用契約は、働くことと報酬を支払うことをお互いに約束することによって成立
する契約です。とてもシンプルな内容ですが(逆にシンプルな内容だけに)、
その約束がきちんと守られなかった場合には、大きなトラブルになります。
また、単純に債務不履行だからとしてスグに契約解除できないのも雇用契約の
特徴でもあります。