これまで民法という大きな枠組の中で、雇用契約を通して双方にどのような権利や
義務があるのか、その内容について具体的に見てきました。

雇用契約も含めて、様々な契約はそれを締結するか否か、またその内容や方法
については、当事者の自由に決定することが出来ます。(契約自由の原則)

ただ、何か当事者間で争いとなった場合、公序良俗という言葉がよく使われます。


「コウジョリョウゾク」。舌を噛みそうな言葉ですが、これは公の秩序と善良な
風俗を短くしたモノです。

多くの判例において、この公序良俗違反によりその法律行為を無効としているケース
がよく見受けられます。

民法は次のように定めています。

「公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする」
(公序良俗:民法90条)

公序良俗とは、法律行為の「社会的妥当性」と読み替える事ができますが、
その具体的な内容については、その時代ごとの社会情勢や法的なバランス感覚に
関係してきます。

時代の流れに即した法制度の変遷によって、ある時期においては公序良俗に
違反すると言えなかったものが、ある時期を境に公序良俗に反すると判断される
こともありますし、またその逆もあります。

かつて、男女雇用機会均等法が施行される前においては、同一企業内で男女間の賃金
や処遇について、男性社員は主に難易度の高い職務を担当し、将来幹部候補として
扱われ、一方で女性社員は比較的難易度の低い職務に従事し、勤務地限定者として、
それぞれ別に採用・処遇されていたケースがありました。

かつての「お茶汲み」や「寿退社」などの言葉は今では死語であり、それらは
現在の法的なバランス感覚で言うと明らかに「違和感」があります。

このように、公序良俗の意味はその時代の価値観をダイレクトに反映されたもので、
日々変化していると言っても過言ではありません。

今日、少子高齢化や経済のグローバル化がものすごいスピードで進行している中で、
これまでのように日本人のみの価値観でこの公序良俗の言葉を定義付けることも
難しくなってきています。現に、社内の公用語を英語とする会社が出て来たり、
コンビニやファーストフード店などで外国人労働者の方と接する機会は珍しく
ありません。

外国籍の上司や部下、同僚を当たり前に持つ日は、そう遠い日では無いかと思います。

年齢や立場、国籍を超えて、この公序良俗というものを形成していくのはこれまで
以上に困難な状況にあります。また、全て言わなくても暗黙知で相互に理解出来て
いたものが、これからはきちんと言葉にして表さないと伝わらないケース
(母国語ではないから当然ですが)も増えてくるでしょう。

その過程で、雇用契約の契約という側面(双方の権利と義務を明確にし、双方納得の上
合意すること)がより強く求められるかと思います。

前シリーズからの続編として、この契約と言う側面にスポットを当てて判例や民法を
交えてお話して来ました。これから来るであろう新しい時代における労務管理の
ヒントになれれば幸いです。

全12回お付き合い頂きまして、誠にありがとうございました。